第3回 本物の脳はどんな形?・・・実物大の脳模型で見る、大きさ・重さ・中身
脳は、体の多くの働きをまとめる司令塔です。
ものを見る、音を聞く、手足を動かす、考える、覚える。それだけではなく、呼吸や体温、心臓の拍動の調整にも、脳が関わっています。
ところが、これだけ身近な臓器なのに、本物の脳がどんな形で、どのくらいの大きさで、頭の中にどう収まっているのかを、写真や模型で確かめる機会は、あまりありません。
今回の第3回では、実物大の脳模型の写真を使って、
・頭の中での収まり方
・大きさと重さ
・本物の色とやわらかさ
・表面のしわ
・脳を4つに分けたときの、それぞれの形と役割
・脳を守るしくみと、脳に血液を送る血管
を順にご紹介させて頂きます。
頭蓋骨を外すと、脳はこう入っている

頭蓋骨の上半分(頭蓋冠)を外した状態。実物大の頭蓋骨の中に、実物大の脳が収まっています。
上の写真は、頭蓋骨の上半分を外して、中の脳が見えるようにしたところです。
脳は、頭蓋骨の中にすき間なくぴったりと収まっているように見えます。
実際には、脳と頭蓋骨の間には3枚の膜と、脳脊髄液(のうせきずいえき)という液体があり、脳はこの液体の中に浮かぶような形で守られています。このしくみは、後ほど詳しくご説明させて頂きます。
頭蓋骨を内側から見ると、床の部分(頭蓋底)はでこぼこしています。脳の底面はこのでこぼこに合った形をしていて、前頭葉・側頭葉・小脳が、それぞれのくぼみに収まっています。
頭蓋骨そのものの形については、第13回「頭蓋骨は何個の骨でできている?」で詳しくご紹介しています。
重さは約1,300グラム、体重の約2%
成人の脳の重さは、およそ1,200〜1,500グラムです。男性でおよそ1,350〜1,450グラム、女性でおよそ1,200〜1,300グラムほどとされています。
平均するとおよそ1,300〜1,400グラムです。ただし、これらは目安で、体格や年齢によって幅があります。文献によって示される数値も少しずつ違います。
1リットルの牛乳パックが約1キログラムですから、牛乳パック1本と少しの重さです。
体重60キログラムの人であれば、脳は体重の約2%にすぎません。
ところが、脳が使うエネルギーは、体全体が安静時に使うエネルギーの約20%にもなります。
体重の2%しかない臓器が、体全体の5分の1ほどのエネルギーを使っているのです。
脳は主にブドウ糖と酸素をエネルギー源にしていて、それを蓄えておくことがほとんどできません。そのため、脳には休みなく血液が送られ続けています。心臓から送り出される血液のうち、約15%が脳に向かいます。
本物の脳の色と、やわらかさ
模型の脳はベージュ色で、表面に赤い血管が描かれています。では、本物の脳は何色でしょうか。
生きている人の脳の表面は、ピンクがかった灰色〜ベージュに見えます。表面にはたくさんの細い血管が走り、血液が通っているため、赤みを帯びて見えます。
一方で、解剖の教科書などで見る脳の標本は、灰色がかった白っぽい色をしていることがほとんどです。標本にするときに薬品(ホルマリンなど)で固めると、組織の性質が変わり、血液の赤みも失われるためです。
大脳を切ってみると、色が2種類に分かれています。
・表面近くの層になった、灰色がかった部分=灰白質(かいはくしつ)。神経細胞の本体が集まっている部分です
・その内側の、白っぽい部分=白質(はくしつ)。神経細胞から伸びる線維(神経線維)が集まっている部分です
なお、灰白質は表面だけでなく、脳の奥にもかたまりになって存在しています(後ほどご紹介する視床など)。
白質が白く見えるのは、神経線維を包んでいる「髄鞘(ずいしょう)」という鞘が脂質を多く含んでいるためです。
そして本物の脳は、とてもやわらかい臓器です。
生きている脳は、豆腐や、やわらかいゼリーにたとえられるほどのやわらかさで、自分の形を保つ力も強くありません。
模型は硬い樹脂で作られていますので、手に取って、裏返したり、分解したりして観察することができます。形や位置関係を確かめるには、こうした模型が向いています。
表面のしわを広げると、新聞紙1ページ分

脳を下側(底面)から見たところ。表面のもり上がり(脳回)と溝(脳溝)が、ぎっしりと並んでいます。
脳の写真を見て、まず目に入るのが、表面のしわです。
もり上がっている部分を「脳回(のうかい)」、溝の部分を「脳溝(のうこう)」と呼びます。
大脳の表面にある灰白質の層(大脳皮質)は、厚さがわずか2〜4ミリほどしかありません。この薄い層を、限られた頭蓋骨の中にできるだけ広く収めるために、表面が折りたたまれて、しわになっているのです。
しわを全部広げたとすると、大脳皮質の面積はおよそ2,000平方センチ以上。新聞紙1ページ(約2,200平方センチ)ほどの広さになります。数値は測り方によって幅があります。
しわの中でも、特に深くてはっきりした溝には名前が付いています。
たとえば、脳の左右の真ん中を前後に走る深い溝が「大脳縦裂(だいのうじゅうれつ)」で、ここで大脳は右半分と左半分に分かれています。
この大脳縦裂には、脳を包む膜(硬膜)が仕切りのように入り込んでいて、これを「大脳鎌(だいのうがま/だいのうかま)」と呼びます。形が鎌の刃に似ていることから、この名前が付いています。
脳は、大きく4つに分けて見る

実物大 精密脳模型を8つのパーツに分解したところ。上の4つが大脳、中ほどの2つが小脳、下の2つが脳幹と間脳を含むパーツです。
脳は一つのかたまりに見えますが、形と役割から、大きく次の4つに分けて見ると分かりやすくなります。
- 大脳(だいのう)・・・脳の大部分を占める、左右2つの半球。考える・感じる・体を動かす指令を出す
- 間脳(かんのう)・・・大脳の奥に隠れている部分。視床と視床下部からなる
- 小脳(しょうのう)・・・大脳の後ろ下にある、細かいしわの多い部分。体の動きとバランスを調整する
- 脳幹(のうかん)・・・脳の一番下で、脊髄につながる部分。中脳・橋・延髄からなり、呼吸など生きるための働きを受け持つ
上の写真は、この4つを実際に取り外せる実物大の脳模型です。
それでは、1つずつ見ていきます。
1.大脳・・・脳の重さの約8割を占める

脳を左右の真ん中で切った断面(正中断面)。上の大きな部分が大脳、その下の白い弓形の帯が脳梁、右下が小脳、下へ伸びるのが脳幹です。
大脳は、脳全体の重さのおよそ8割を占める、最も大きな部分です。脳のイラストでおなじみの、しわに覆われた丸い部分が、この大脳です。
大脳は、大脳縦裂で右半分(右大脳半球)と左半分(左大脳半球)に分かれています。
そして、体の動きと感覚については、右の大脳が体の左側を、左の大脳が体の右側を受け持っています。
右手を動かすときは、左の大脳から指令が出ます。右手をつねって「痛い」と感じるのも、主に左の大脳です。
左右の大脳は、完全に離れているわけではありません。
上の断面写真で、大脳の下に見える白い弓形の帯が「脳梁(のうりょう)」です。左右の大脳をつなぐ神経線維の太い束で、およそ2億本の線維が通っているとされています。主にこの脳梁を通して、左右の大脳は情報をやりとりしています。
大脳の表面は、大きな溝を境に、主に次の4つの「葉(よう)」に分けられます(このほか、溝の奥に隠れた「島(とう)」という部分もあります)。
・前頭葉(ぜんとうよう):おでこ側。体を動かす指令、考える・計画するなどの働き
・頭頂葉(とうちょうよう):頭のてっぺん側。皮膚などから来る体の感覚、空間の位置関係の把握
・側頭葉(そくとうよう):耳の横。音を聞く、言葉を理解する、記憶に関わる働き
・後頭葉(こうとうよう):後頭部。目で見たものを処理する働き
ただし、脳の働きは1か所だけで完結するものではなく、実際には多くの領域が連携して働いています。
2.間脳・・・大脳の奥に隠れた中継点

断面の中央部分の拡大。21番が視床、22番が視床下部、23番が下垂体です。
間脳は、左右の大脳に包まれるように、脳の中心部にある部分です。外からはほとんど見えません。
間脳は、主に「視床(ししょう)」と「視床下部(ししょうかぶ)」からできています。
視床は、目・耳・皮膚などから入ってきた感覚の情報を、大脳へ送り届ける中継点です。においの情報以外の、ほとんどの感覚がここを通ります。
視床下部は、体温、のどの渇き、食欲、睡眠など、体の状態を一定に保つための調整を行っています。自律神経の働きやホルモンの分泌の調整にも関わっています。
写真の23番は「下垂体(かすいたい)」です。
視床下部の下に、細い柄でぶら下がるようについている小さな器官で、成長ホルモンなど、さまざまなホルモンを分泌しています。視床下部は、この下垂体の働きを調整しています。
大きさは小指の先ほどしかありませんが、体の中のホルモンの働きの中心となっている器官です。
3.小脳・・・断面に見える「木の枝」模様

小脳の断面。白い部分が枝分かれした木のような模様を作っています。
小脳は、大脳の後ろ下、後頭部の奥にある部分です。重さは脳全体の約1割ほどです。
表面を見ると、大脳よりもずっと細かいしわが、平行に何本も並んでいます。
小脳を切ってみると、上の写真のように、内側の白質が枝分かれした木のような模様を作っています。この模様は「小脳活樹(しょうのうかつじゅ)」と呼ばれ、脳の断面の中でも特に目を引く部分です。
小脳の主な役割は、体の動きをなめらかに、正確にすることと、体のバランスを保つことです。
たとえば、コップを取るときに手を伸ばしすぎず、ちょうどよい位置で止められるのは、小脳が動きを調整しているからです。小脳の働きが落ちると、ふらついてまっすぐ歩けなくなったり、手の動きがぶれたりします。
脳全体には、およそ860億個の神経細胞があると推定されています。
このうち、約8割は小脳にあるとされています。脳の重さの1割ほどしかない小脳に、神経細胞の大部分が詰まっているのです。
4.脳幹・・・生きるための働きを受け持つ「脳の幹」

脳幹のパーツを前から見たところ。下から上へ、延髄・橋・中脳と続きます。表面の赤い線は、脳に血液を送る動脈です。
脳幹は、脳の一番下にあって、脊髄へとつながっている部分です。
その名のとおり、脳という木の「幹」にあたる部分です。ここでは、上から順に「中脳(ちゅうのう)」「橋(きょう)」「延髄(えんずい)」の3つを脳幹として扱います(教科書によっては間脳を含めることもあります)。
脳幹は、脳と全身をつなぐ神経の通り道です。脳から手足へ向かう指令も、手足から脳へ向かう感覚の情報も、すべてここを通ります。
さらに脳幹には、呼吸や心臓・血管の働きを調整する中枢があります。特に延髄は、呼吸のリズムを作る働きに深く関わっています。
眠っている間も呼吸が止まらないのは、脳幹が自動的に調整を続けているからです。
また、目や顔、のどなどに向かう神経(脳神経)は左右に12対ありますが、そのうち10対が脳幹から出ています。
脳を守る、3つのしくみ
脳はやわらかく、傷つきやすい臓器です。そのため、何重にも守られています。
1つ目は、頭蓋骨です。 硬い骨の箱で、外からの衝撃から脳を守っています。
2つ目は、3枚の膜(髄膜)です。 外側から「硬膜(こうまく)」「くも膜」「軟膜(なんまく)」の3枚が、脳を包んでいます。先ほどの大脳鎌は、いちばん外側の硬膜が左右の大脳の間に入り込んだものです。
3つ目は、脳脊髄液です。 くも膜と軟膜の間(くも膜下腔)と、脳の内部にある空洞(脳室)を満たしている透明な液体で、量は大人でおよそ150ミリリットルです。1日に500ミリリットルほど作られ、少しずつ入れ替わっています。
脳は、この脳脊髄液の中に浮かぶような状態で収まっています。液体の浮力によって、脳の重さが実質的に大きく軽くなり、頭を動かしたときの揺れや衝撃もやわらげられています。
脳に血液を送る、4本の動脈

脳を下側から見たところ。中央に脳幹があり、その表面を動脈が走っています。
先ほどご紹介したとおり、脳はたくさんの血液を必要とします。
脳に血液を送っているのは、首を通って上がってくる4本の動脈です。左右の「内頸動脈(ないけいどうみゃく)」と、左右の「椎骨動脈(ついこつどうみゃく)」です。
左右の椎骨動脈は、脳幹の前で合流して1本の「脳底動脈(のうていどうみゃく)」になります。上の写真で、脳幹の表面を縦に走っている赤い線がこの動脈です。
そして脳の底では、これらの動脈が輪のようにつながっています(大脳動脈輪)。このつながりは、どこか一部の血流が不足したときに、別の経路から血液を回す助けになると考えられています。
写真や模型を見るときは、この順番で
脳の写真や模型を初めてご覧になるときは、次の順番で見ていくと、全体の形が頭に入りやすくなります。
- まず大脳縦裂を探して、左右の大脳を分ける
- 次に後ろ下の小脳を探す(細かい平行なしわが目印)
- 小脳の前にある、下へ伸びる脳幹を探す
- 最後に正中断面で、大脳の奥にある間脳と、左右をつなぐ脳梁を確認する
このように、脳は、大脳・間脳・小脳・脳幹がそれぞれ役割を分担しながら、一つの臓器として働いています。
これまでの回では、心臓や肺についてご紹介させて頂きましたが、心臓の拍動の速さや呼吸のリズムを調整しているのも、この脳です。
・心臓の仕組みについては、第1回の記事をご参照下さい。
・肺と呼吸については、第2回の記事をご参照下さい。
※本連載は、教材・展示のための解説です。症状や治療に関することは、必ず医療機関にご相談ください。
第3回 本物の脳はどんな形?で用いた人体模型は・・・
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- 頭蓋骨、脳実物大模型・・・実物大の頭蓋骨の中に、実物大の脳(8分解)が収まったモデルです。脳が頭蓋骨にどう収まっているかを確かめられます。本記事の最初の写真はこのモデルです。
動画で見る 脳の構造
脳のかたちと各部の位置関係を、実物大の脳模型で見てみましょう。
※動画は2分45秒です。再生の際は音が出ますのでご注意ください。
構造をご自身の目で確かめたい方、患者さんやご家族・学生さんへの説明にお使いになりたい方は、こちらから模型をご覧いただけます。
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