第12回 耳の中はどうなっている? 耳模型で見る、音が聞こえる仕組みと体のバランス
「その場でぐるぐる回ったあと、止まっても目が回るのはどうして?」
お子さんから、こんな質問をされたことはないでしょうか。
実はこの答えは、目ではなく「耳」の中にあります。
耳というと、顔の横に付いている部分を思い浮かべるかもしれません。そして耳の仕事は「音を聞くこと」だと思われるかもしれません。
でも、外から見えている部分は、耳のほんの入り口にすぎません。耳の本体は、頭の骨の奥深くに埋まっています。そしてそこでは、音を聞くことに加えて、体の傾きや回転を感じ取るという、もうひとつの大切な仕事が行われています。
今回は、耳を3倍に拡大した模型を使って、「音が耳に入ってから、聞こえるまで」と「体のバランスを感じる仕組み」を順番にご説明させて頂きます。

上の写真が、今回使う3倍拡大の耳模型です。左側の大きな部分が、普段私たちが「耳」と呼んでいるところです。その奥、頭の骨の中に、水色の丸い鼓膜や、白い小さな部品が埋まっている様子が見えます。
耳は「外耳・中耳・内耳」の3つに分かれている
耳は、入り口から奥に向かって、大きく3つの部分に分けられます。
- 外耳(がいじ):耳介から、耳の穴を通って鼓膜まで。音を集めて奥へ送る部分です
- 中耳(ちゅうじ):鼓膜の奥の小さな部屋。音の振動を大きくして内耳へ伝えます
- 内耳(ないじ):骨の中のいちばん奥。音を神経の信号に変え、体のバランスも感じ取ります
模型では、この3つの部分に「A」「B」「C」の記号が付けられていて、それぞれの中の器官にも数字が振られています。どこが外耳で、どこからが中耳なのかを、目で見て確かめて頂けます。
ここからは、音の通り道にそって、入り口から順番に見ていきましょう。
耳介と外耳道 音を集めて、奥へ送る
顔の横に付いている、いわゆる「耳」の部分を、「耳介(じかい)」と言います。
耳介は、音を集める集音器の役目をしています。耳の後ろに手のひらを当てて、音を前から集めるようにすると、声が大きく聞こえることがあります。これは、手のひらが耳介の働きを大きくしているためです。
耳介には、でこぼこした複雑なくぼみがあります。音はこのくぼみに当たって、ほんの少しずつ違う形で耳の穴に入っていきます。この違いは、音が前から来たのか、後ろから来たのか、上から来たのかを聞き分ける手がかりになっています。左右どちらから来たかは両方の耳で聞き分けますが、上下や前後の判断には、この耳介の形が大きく関わっています。

上の写真は、模型の耳介を拡大したところです。普段は鏡でもじっくり見ることのない耳のくぼみの形が、3倍の大きさでよく分かります。
耳介の穴から奥へ続く通り道が「外耳道(がいじどう)」です。大人でおよそ2.5〜3センチほどの長さがあり、まっすぐではなく、ゆるやかにS字を描くように曲がっています。
外耳道の入り口に近い部分の皮膚では、耳あかのもとになる分泌物が作られています。そのため、耳あかは主に入り口に近いところにたまります。
外耳道の突き当たりにあるのが、「鼓膜(こまく)」です。
鼓膜と耳小骨 体でいちばん小さな骨が、音を大きくする
鼓膜は、外耳と中耳を仕切っている薄い膜です。直径は1センチ弱、厚さは0.1ミリほどしかありません。
音の正体は、空気の振動です。外耳道を通ってきた空気の振動が鼓膜に当たると、鼓膜が震えます。
鼓膜の奥には、「耳小骨(じしょうこつ)」と呼ばれる3つの小さな骨が、関節でつながって並んでいます。鼓膜の側から順に、
- ツチ骨:鼓膜にくっついている骨。形が木づちに似ています
- キヌタ骨:ツチ骨とアブミ骨の間をつなぐ骨
- アブミ骨:馬に乗るときに足をかける「あぶみ」に形が似た骨。内耳の入り口にはまっています
となっています。このうちアブミ骨は、高さが3ミリほどしかなく、人間の体の中でいちばん小さな骨です。
鼓膜が震えると、その振動はツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨へと順番に伝わっていきます。
ここで大切なのが、耳小骨が振動を「大きくして」伝えているという点です。
鼓膜は、アブミ骨が内耳にはまっている部分(アブミ骨底)と比べて、面積がおよそ17倍あります。広い鼓膜で受けた力を、小さなアブミ骨底に集めることで、押す力が強くなります。さらにツチ骨とキヌタ骨がてこのように働くことも加わって、鼓膜にかかった音の圧力は、およそ20倍前後にまで高められて内耳へ届きます。
意外に思われるかもしれませんが、この仕組みがなければ、音の大部分は内耳に届く前に跳ね返されてしまいます。空気の振動を、内耳を満たしている液体に効率よく伝えるための、とても巧みな仕組みなのです。

上の写真は、模型から取り外したパーツを並べたところです。左が鼓膜と耳小骨、右が内耳の三半規管と蝸牛です。水色の鼓膜の表面に、ツチ骨がくっついている様子を確認して頂けます。
実物の耳小骨は米粒ほどの大きさで、形を目で見て確かめることはまずできません。模型では3倍に拡大されたうえ、鼓膜と一緒に手に取って観察して頂けます。
中耳と耳管 飛行機で耳がツンとするのはなぜ?
耳小骨が収まっている、鼓膜の奥の小さな部屋を「鼓室(こしつ)」と言います。中耳は、この鼓室と、あとでご説明する耳管・乳突洞をまとめた部分を指します。
中耳の中は、液体ではなく空気で満たされています。そして中耳からは、「耳管(じかん)」という細い管が、鼻の奥、のどの上のほうへとつながっています。
耳管は、普段は閉じています。つばを飲み込んだり、あくびをしたりしたときに一瞬だけ開き、中耳の中の空気の圧力を、外の空気と同じにしています。
飛行機の離着陸やエレベーター、トンネルの中などで、耳がツンと詰まったように感じることがあります。これは、周りの気圧が急に変わったのに、中耳の中の気圧がまだ追いついておらず、鼓膜が内側か外側に押されているためです。つばを飲み込むと耳が「ポン」と抜けるのは、耳管が開いて、中耳と外の気圧がそろうためです。

上の写真は、模型から鼓膜と耳小骨、内耳のパーツを取り外して、台の上に並べたところです。パーツが外れた本体の中に、中耳の小さな部屋と、そこから写真の右奥へ向かって、のどの方へ伸びていく耳管の通り道を観察して頂けます。
このように、耳と鼻・のどは、耳管を通じてつながっています。鼻の奥の構造については、「第6回 鼻の中はどうなっている?」で詳しくご紹介しています。
また中耳の後ろ上の方は、耳の後ろの骨の中にある「乳突洞(にゅうとつどう)」という空洞につながっています。耳の後ろを指で触ると、硬い骨の出っ張りがあります。この乳突洞からさらに奥は、スポンジのように小さな空気の部屋(乳突蜂巣)がたくさん集まった作りになっています。
蝸牛 音を神経の信号に変える、カタツムリの形をした器官
アブミ骨の振動が伝わる先が、内耳の「蝸牛(かぎゅう)」です。
蝸牛は、その名前のとおり、カタツムリの殻のようにぐるぐると巻いた形をしています。人間の蝸牛は、およそ2回転半巻いています。大きさは、実物では小指の先ほどしかありません。
蝸牛の中は、リンパ液という液体で満たされています。アブミ骨が内耳の入り口にある小さな窓「卵円窓(らんえんそう)」を押すと、蝸牛の中の液体が揺れます。蝸牛にはもうひとつ「正円窓(せいえんそう)」という窓があり、アブミ骨が押し込んだ分だけこちらの膜が外へふくらむことで、液体がスムーズに揺れることができます。
蝸牛の中には、「有毛細胞(ゆうもうさいぼう)」という、先に細い毛の束が生えた細胞が並んでいます。液体の揺れによってこの毛が傾くと、有毛細胞が反応し、音の振動が電気の信号に変わります。ここで初めて、音は「神経の信号」になります。
蝸牛のすばらしいところは、音の高さを場所で聞き分けている点です。
蝸牛の入り口に近い部分は高い音によく反応し、奥の巻きの中心に近い部分ほど低い音によく反応します。ピアノの鍵盤が、端から端へ順番に高さの違う音を受け持っているのと、よく似ています。
若い人の耳は、低い音から高い音まで、おおよそ20ヘルツから2万ヘルツの範囲の音を聞き取ることができるとされています。年齢とともに、特に高い音から聞き取りにくくなっていくのは、蝸牛の入り口に近い、高い音を受け持つ有毛細胞から傷みやすいことが関係していると考えられています。
有毛細胞は、一度傷つくと基本的には元に戻らないとされています。大きな音を長時間聞き続けないことが、耳を守ることにつながります。聞こえ方に気になることがある場合は、耳鼻咽喉科でご相談ください。特に、ある日突然、片方の耳が聞こえにくくなった場合は、治療の開始が早いほど回復が見込めるとされています。様子を見ずに、できるだけ早く耳鼻咽喉科頭頸部外科を受診してください。

上の写真は、模型の中耳から内耳にかけてを拡大したところです。手前の水色の丸が鼓膜、その奥の白い輪が重なった部分が三半規管、右側の丸くふくらんだ部分が蝸牛です。蝸牛から右へ伸びている黄色い束が、音やバランスの情報を脳へ送る「内耳神経(ないじしんけい)」です。
写真の左側、赤い網目のように塗られた部分は、先ほどご説明した乳突洞と、その奥に続く乳突蜂巣のあたりで、骨の中の小さな空気の部屋が表現されています。
三半規管と前庭 目が回るのは、耳の中の液体のせい
ここで、冒頭の「ぐるぐる回ったあと、止まっても目が回るのはどうして?」というお話に戻ります。
内耳には、蝸牛のほかに、体のバランスを感じ取るための器官があります。それが「三半規管(さんはんきかん)」と「前庭(ぜんてい)」です。
三半規管は、半円の形をした3本の管です。それぞれの管は、互いにおおよそ直角になるような向きで並んでいます。そのため、うなずく動き、首をかしげる動き、横に振り向く動きと、どの方向の回転でも、どれかの管が感じ取れるようになっています。
- 前骨半規管(ぜんこつはんきかん)
- 後骨半規管(こうこつはんきかん)
- 外側骨半規管(がいそくこつはんきかん)
三半規管の中も、リンパ液で満たされています。管の付け根はふくらんでいて、その中には「クプラ」というゼリー状のふたのようなものがあり、有毛細胞の毛がこのクプラの中に入っています。頭が回転すると、管は頭と一緒に回りますが、中の液体は少し遅れてついていきます。この液体の流れがクプラを押し倒し、毛が傾くことで、「今、回っている」という信号が脳に送られます。
では、回るのをやめたときはどうでしょうか。体は止まっても、管の中の液体は勢いがついていて、すぐには止まりません。今度は逆向きに液体がクプラを押すことになり、脳には「回っている」という信号が送られ続けます。このとき感じる回転の向きは、それまで回っていたのとは反対向きになることが知られています。目で見ている景色は止まっているのに、耳は回っていると伝えてくる。このずれが、回るのをやめたあとの「目が回る」感覚の正体です。
一方、三半規管と蝸牛の間にある「前庭」は、回転ではなく、体の傾きや、まっすぐ進む動きを感じ取っています。前庭の中には「耳石(じせき)」と呼ばれる、ごく小さな石のような粒が乗った部分があります。頭を傾けたり、エレベーターが動き出したりすると、重さのある耳石がずれて、その動きを有毛細胞が感じ取ります。
乗り物酔いも、目から入る情報と、耳が感じる揺れの情報が食い違うことが、原因のひとつと考えられています。
なお、ここでご説明したのは、健康な方でも起こる一時的なめまいの仕組みです。回ったわけでもないのに強いめまいが起きる、何度も繰り返す、耳鳴りや聞こえにくさをともなう、手足のしびれやろれつが回らないといった場合は、耳や脳の病気が隠れていることがあります。自己判断をせず、耳鼻咽喉科などの医療機関にご相談ください。

上の写真は、模型を裏側から撮影したものです。頭の骨の中に、三半規管と蝸牛が埋まっている様子と、そこから伸びる黄色い内耳神経を確認して頂けます。
内耳神経は、蝸牛からの「音の情報」と、三半規管・前庭からの「バランスの情報」を、まとめて脳へ運んでいます。聞こえとバランスは、同じ耳の奥で、隣り合って働いているのです。
第12回で用いた人体模型は
今回の写真は、全て「3倍拡大 耳模型」を使っています。
外耳から内耳までを3倍に拡大してスタンドに固定したモデルで、立体的な形が分かりにくい耳小骨、三半規管、蝸牛を取り外して、手に取って観察して頂けます。乳突洞や耳管、内耳神経など、耳の周りの器官も再現されています。
外耳・中耳・内耳の各器官には記号と数字が振られていて、商品ページの解説と合わせて確かめて頂くことで、どこがどの器官なのかを学んで頂けます。
動画で見る 耳の中の構造
ここまでご説明した内容を、実際の人体模型の動画でご覧いただけます。
※動画は1分00秒です。再生の際は音が出ますのでご注意ください。
蝸牛や鼓膜を取り外せる様子は、こちらの動画でご覧いただけます。
※動画は1分16秒です。
耳の構造をご自身の目で確かめたい方、患者さんやご家族・学生さんへのご説明にお使いになりたい方は、こちらから模型をご覧いただけます。
この連載の他の記事もどうぞ
連載「人体模型で見る、人間の体の不思議」全12回
- 第1回 心臓の仕組み ── 1日10万回、休まず動き続ける臓器
- 第2回 肺で呼吸をするとは、どういうことか ── 肺は自分では膨らめない
- 第3回 脳の構造は、どうなっているのか? ── 1,400gの臓器の役割分担
- 第4回 「胃で吸収する」は嘘!胃の本当の役割とは? ── 栄養を吸収しているのは胃ではない
- 第5回 1500gの巨大臓器「肝臓」の役割 ── 沈黙の臓器と呼ばれる理由
- 第6回 鼻の断面図 鼻の中はどうなっている? ── 鼻腔・鼻甲介から副鼻腔まで
- 第7回 本物の心臓はどんな形? ── 形・大きさ・位置・色を実物大模型で
- 第8回 腎臓の断面はこうなっている ── 3倍拡大模型で見る、尿ができるまで
- 第9回 子宮と赤ちゃんの育ち方 ── 妊娠1か月から7か月までを8種類の模型で
- 第10回 人体模型の値段はなぜ違う? ── 同じ臓器で8倍ひらく理由と選び方
- 第11回 目の中はどうなっている? ── 眼球模型で見る、ものが見えるまでの仕組み
- 第12回 耳の中はどうなっている? (このページ) ── 耳模型で見る、音が聞こえる仕組みと体のバランス


