第4回 本物の胃はどんな形?・・・実物大の胃模型で見る、位置・大きさ・壁のつくり・胃液のしくみ
胃は、食べたものが口から食道を通って最初にたどり着く、消化管の中でいちばん大きな袋です。
「胃がもたれる」「胃が痛い」「胃がぐーっと鳴る」など、名前を聞く機会はとても多い臓器です。一方で、本物の胃がどんな形で、お腹のどのあたりにあり、中がどうなっているかは、写真や模型で確かめる機会は、あまりありません。
また、胃には、よくある勘違いもあります。「食べたものは胃で吸収される」と思われるかもしれませんが、栄養のほとんどは胃ではなく小腸で吸収されます。胃の仕事は、食べたものを一度ためて、かき混ぜ、特にたんぱく質の消化を進めてから、少しずつ十二指腸へ送り出すことです。
第3回では、体の司令塔である脳についてご紹介させて頂きました。今回の第4回では、消化器全体の模型、実物大の胃模型、胃・十二指腸・膵臓(すいぞう)の模型の写真を使って、
・口から肛門までの道すじと、お腹の中での胃の場所
・胃の形と、入り口・出口のつくり
・空腹のときと、食べたあとの大きさのちがい
・胃の壁の層と、3方向に動く筋肉
・内側のひだと、胃液のはたらき
・胃の後ろにある膵臓や、まわりの血管
を順にご紹介させて頂きます。
食べたものは、口から肛門まで1本の管を通る

口から肛門までの消化管を、実物大で一枚の盤に並べた模型。上の細い管が食道で、その下の袋が胃です。
写真の模型:消化器全体 実物大模型(商品ページ)
上の写真は、消化管全体を再現した模型です。口から入った食べものは、
口 → 咽頭(のど) → 食道 → 胃 → 小腸(十二指腸・空腸・回腸)→ 大腸 → 肛門
の順に、1本の長い管を通っていきます。
胃は、この管の途中が大きくふくらんだ部分です。食道から送られてきた食べものを受け止め、いったんためておいて、少しずつ先の十二指腸へ送り出します。
胃は、みぞおちから左のあたりにある
胃は、お腹の中の左上のほうにあります。みぞおち(胸の真ん中の下のくぼみ)から、左の肋骨の下にかけて、横隔膜(おうかくまく)という筋肉の膜のすぐ下に収まっています。
胃の右側には、大きな肝臓があります。胃の後ろ側には、膵臓(すいぞう)が横たわっています。このように胃は、まわりの臓器に囲まれています。
「胃はお腹の真ん中あたり」と思われるかもしれませんが、実際には、おへそよりも上のほうにあります。胃の不快感を「みぞおちが痛い」「みぞおちが重い」と言い表すのは、この位置に胃があるためです(ただし、みぞおちの不快感の原因は、胃だけとは限りません)。
胃の形・・・「J」の字のような袋

実物大の胃模型を、スタンドに立てたところ。模型に書かれた数字は、胃の部位を示す番号です。
写真の模型:実物大 胃模型(商品ページ)
上の写真は、胃を実物大で再現した模型です。胃は多くの場合、アルファベットの「J」の字のように曲がった袋の形をしています(体格や姿勢、中に入っている量によって、形や位置は変わります)。
胃には、入り口と出口があります。
・入り口は噴門(ふんもん)といい、食道とつながっています。食べものが食道へ逆流しにくいしくみがあります。
・出口は幽門(ゆうもん)といい、十二指腸とつながっています。ここには輪のような筋肉(幽門括約筋〈ゆうもんかつやくきん〉)があり、消化の途中の食べものが一気に先へ流れないよう、開け閉めをしています。
胃のカーブにも名前があります。内側のくびれた側を小弯(しょうわん)、外側の大きくふくらんだ側を大弯(だいわん)と呼びます。
さらに、胃は上から順に、胃底部(いていぶ)・胃体部(いたいぶ)・幽門部(ゆうもんぶ)の3つに分けられます。いちばん広くふくらんでいるのが胃体部で、出口に向かってしだいに細くなっていくのが幽門部です。
胃の大きさ・・・空腹のときと食べたあとで、何倍もちがう
胃の大きさは、食べたものの量によって大きく変わります。
空腹のときの胃は、ほとんど食べものが入っていないため、しぼんだ状態です。このときの胃そのものは、「握りこぶし1つ分」ほどの大きさといわれます。
食事をして胃がふくらむと、胃の壁がのびて、中に1リットルを超える量を入れることもできます。胃の大きさや入る量には個人差がありますが、胃は、空腹時と食後で何倍もの差が出るほど大きさが変わる臓器です。
今回ご紹介している実物大の胃模型は、胃本体の横幅がもっとも広いところで約16センチです。この模型は、胃の形と内部のつくりを観察するためのもので、食べたあとにふくらんだ胃の大きさを表したものではありません。
胃の壁は4つの層でできている
胃は、ただの袋ではありません。胃の壁は、内側から順に、
粘膜(ねんまく)→ 粘膜下層(ねんまくかそう)→ 筋層(きんそう)→ 漿膜(しょうまく)
の4つの層が重なってできています。
いちばん内側の粘膜は、胃液を出したり、胃を守る粘液をつくったりします。内側から3番目の筋層は、胃を動かす筋肉の層です。いちばん外側の漿膜は、胃の表面をおおう、なめらかな膜です。
3方向に動く筋肉が、食べものをかき混ぜる

前のふたを外した、胃・十二指腸・膵臓の模型。写真の右側の赤い筋が胃の壁の筋肉、中央から左に広がるのが内側のひだです。
写真の模型:胃・十二指腸・膵臓模型(商品ページ)
上の写真は、胃・十二指腸・膵臓の模型の、前のふたを外したところです。写真の右側に、赤い筋肉の模様が見えます。これが胃の壁の筋肉(筋層)です。
胃の筋肉は、ほかの消化管と少しちがって、外側から順に、縦走筋(じゅうそうきん)・輪走筋(りんそうきん)・斜走筋(しゃそうきん)の3層になっています。
・縦走筋…胃の長い方向(縦)に走る筋肉
・輪走筋…胃のまわりを輪のように走る筋肉
・斜走筋…斜めに走る筋肉(いちばん内側)
方向のちがう筋肉が、食べものを押したり、ねじったり、かき混ぜたりします。食べものと胃液が混ざり合うのは、この動きのおかげです。食後の胃では、胃の中ほどから出口(幽門)に向かって、1分間に3回ほどのペースで、波のような動き(蠕動〈ぜんどう〉)が起こり、中身を先へ送っていきます。
胃の内側には、ひだがある

写真2と同じ実物大 胃模型を2つに開いて、内側を見たところ。胃の内側は、うねるような「ひだ」でおおわれています。
上の写真は、実物大の胃模型を2つに開いて、内側を見たところです。外から見るとなめらかな袋ですが、内側にはたくさんのひだ(粘膜ひだ)があります。
胃が空っぽのときは、このひだが折りたたまれるように重なっています。食べものが入ってくると、ひだがのびて、胃がふくらみます。ひだがあることで、胃は大きさを変えやすくなっています。
胃カメラ(胃内視鏡検査)で医師が見ているのも、この内側の粘膜です。ひだの様子や粘膜の色を見て、胃の状態を調べます。
胃液は、粘膜にある小さなくぼみから出ている
胃の内側の粘膜には、顕微鏡でないと見えないほど小さなくぼみが、無数にあります。これを胃小窩(いしょうか)といい、そこに胃腺(いせん)という、胃液を出す部分がつながっています。肉眼で見える「ひだ」とは別の、ごく細かいつくりです。
胃液は、成人で1日におよそ2リットルも出るといわれています(これは出た量の合計で、胃が一度に入れられる量ではありません)。胃液には、次のようなものが含まれています。
・胃酸(塩酸)…非常に強い酸で、空腹時の胃の中のpH(酸性の強さを表す数字。小さいほど酸性が強い)は1〜2程度です(食後は、食べものによって一時的に数字が上がり、酸性が弱まります)。食べものをやわらかくし、細菌を減らすはたらきがあります。
・ペプシン(たんぱく質を分解する消化酵素)…もとは「ペプシノーゲン」という形で出て、胃酸にふれてペプシンに変わります。肉や魚、卵、豆などのたんぱく質を、細かく分けていきます。
・粘液…胃の壁をおおって、胃酸や消化酵素から胃自身を守ります。
「そんなに強い酸が出ているのに、胃はなぜ溶けないの?」と思われるかもしれません。胃の壁は、重曹のような成分(重炭酸)を含む粘液のうすい膜、粘膜の細胞どうしのすき間をふさぐしくみ、傷ついた細胞をすぐに入れかえるしくみなどで守られています。そのため、胃酸があっても、ふつうは胃の壁が溶けたり傷ついたりしません。
さらに胃液には、内因子(ないいんし)というものが含まれています。これは、ビタミンB12が小腸で吸収されるのを手伝う物質です。胃では栄養の吸収はほとんど行われませんが、吸収を手伝うという仕事もしています。
「食べたものは胃で吸収される」は、よくある勘違い
では、胃の役割は何でしょうか。胃には、主に次の4つの仕事があります。
① ためる…食べたものを、いったんためておきます。一度にたくさん食べても、少しずつ先へ送り出せるのは、胃がいったんためておけるからです。
② かき混ぜる…3層の筋肉で、食べものと胃液をよくかき混ぜます。
③ たんぱく質の消化を進める…胃酸とペプシンで、主にたんぱく質の消化が始まります(消化は、口でかむことと唾液(だえき)からすでに始まっています)。食べものは、おかゆのようなどろどろの状態になります。
④ 少しずつ送り出す…幽門を通して、十二指腸へ少しずつ送り出します。食べものが胃にとどまる時間は、食事の量や内容(液体か固形か、脂肪が多いかなど)によって変わり、一般的な食事では数時間が目安です。
一方、栄養を体に取りこむ吸収は、そのほとんどが小腸で行われます。胃で吸収されるのは、アルコールなど、ごく一部です。そのアルコールも、大部分は小腸で吸収されます。
胃の後ろには、膵臓と、太い血管がある

写真3と同じ胃・十二指腸・膵臓模型を、後ろから見たところ。黄色い膵臓と、中央を縦に走る赤い血管(腹部大動脈)が見えます。
上の写真は、胃・十二指腸・膵臓の模型を、後ろ側から見たところです。胃の後ろには、黄色い膵臓が横たわっています。中央を縦に走る赤い管は、腹部大動脈という、お腹の中を通る太い血管です。
腹部大動脈からは、胃や肝臓、脾臓(ひぞう)、膵臓へ血液を送る枝が出ています。胃には、「左胃動脈(ひだりいどうみゃく)」などの血管が血液を運んでいます。
膵臓は、膵液(すいえき)という消化液を十二指腸へ送り、消化のもうひとつの大切な仕事をしています。膵臓については、第15回「本物の膵臓はどんな形?」で、くわしくご紹介させて頂いています。
写真や模型を見るときは、この順番で
胃の模型や写真を見るときは、次の順番で見ていくと、つくりがつかみやすくなります。
- まず、全体の形を見る…「J」の字に曲がった袋であることを確かめます。
- 入り口(噴門)と出口(幽門)を見つける…食道につながる側と、十二指腸につながる側です。
- 大きくふくらんだ側(大弯)と、くびれた側(小弯)を見分ける…胃のカーブの名前です。
- 壁の筋肉を見る…外側から縦、輪、斜めの3層になっています。
- 内側のひだを見る…胃の大きさを変えられるのは、このひだのおかげです。胃液は、粘膜にある小さなくぼみ(胃小窩)から出ます。
- 後ろの膵臓や血管を確かめる…胃と、まわりの臓器や血管との位置関係が分かります。
※本連載は、教材・展示のための解説です。症状や治療に関することは、必ず医療機関にご相談ください。
第4回 本物の胃はどんな形?で用いた人体模型は・・・
消化器全体 実物大模型・・・口から肛門までの消化管と、肝臓、胆嚢、膵臓、脾臓を実物大で再現し、盤面に固定した模型です。本記事の写真1はこのモデルです。
実物大 胃模型・・・胃を実物大で再現した模型です。胃の内側のひだや、入り口・出口のつくりを観察できます。2つのパーツに分けて、内側を見ることもできます。本記事の写真2・4はこのモデルです。
胃・十二指腸・膵臓模型・・・胃、十二指腸、膵臓、腹部大動脈とその枝を、実物の3分の2のサイズで再現した模型です。前の透明なふたを取り外して、胃の壁の3層の筋肉を確認できます。本記事の写真3・5はこのモデルです。
動画で見る 胃の内部の構造
胃がどんなかたちで、内側がどうなっているかを実物大の模型で見てみましょう。
※動画は50秒です。再生の際は音が出ますのでご注意ください。
構造をご自身の目で確かめたい方、患者さんやご家族・学生さんへの説明にお使いになりたい方は、こちらから模型をご覧いただけます。
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