第8回 腎臓の断面はこうなっている 3倍拡大模型で見る、尿ができるまで
子供さんに「おしっこはどこで作られるの?」と聞かれて、答えに詰まったことはないでしょうか。
「膀胱(ぼうこう)」と答える方が多いのですが、膀胱は溜めておく袋であって、作っている場所ではありません。
尿を作っているのは、背中側に左右ひとつずつある「腎臓(じんぞう)」です。
そして腎臓は、外から見てもその働きがまったく分かりません。ソラマメのような形をした、赤茶色の臓器が2つあるだけです。
腎臓の本当のすごさは、切った断面にあります。
今回は、腎臓の断面を3倍に拡大した模型を使って、「血液から尿ができるまで」を順にご説明させて頂きます。
腎臓はどこに、いくつあるのか
腎臓は、背中側の腰の少し上あたりに、左右1つずつあります。
大きさは握りこぶしよりやや小さいくらいで、長さ10〜12センチ、幅5〜6センチ、厚み3〜4センチほど。重さは片方で120〜170グラムです。体格によって幅があります。
背骨でいうと、いちばん下の胸椎から腰椎の上のあたり。いちばん下の肋骨と重なる高さにあります。
左右の高さも同じではありません。右の腎臓は、すぐ上に大きな肝臓があるため、左よりわずかに低い位置に収まっています。
腎臓の上には、それぞれ「副腎(ふくじん)」という小さな臓器が、帽子のようにかぶさっています。
名前は似ていますが、まったく別の臓器です。腎臓が尿を作るのに対し、副腎はホルモンを出します。
下の写真は、その副腎の断面を拡大したものです。黄色い部分が副腎皮質、内側の三角形が副腎髄質で、それぞれ別のホルモンを出しています。

断面は、皮質・髄質・尿の通り道でできている
下の写真は、腎臓を縦半分に切った断面を、3倍の大きさで再現した模型です。
外から見ただけでは分からなかった構造が、断面ではっきりと分かれて見えます。

まず、実質(じっしつ)と呼ばれる本体部分が、外側と内側の2層に分かれています。
- 皮質(ひしつ) いちばん外側の層です。ここに、ろ過装置の本体が詰まっています。
- 髄質(ずいしつ) その内側で、三角形の縞模様に見える部分です。この三角形ひとつひとつを「腎錐体(じんすいたい)」と呼び、片方の腎臓に10個前後あります(個人差があります)。
そして三角形と三角形の間には、外側の皮質が谷のように落ち込んでいます。これを「腎柱(じんちゅう)」と呼びます。
写真で、三角形の間に赤みの強い部分が入り込んで見えるのが、この腎柱です。
さらにその内側、中心にあるベージュ色の空洞が、できあがった尿の通り道です。
三角形の腎錐体は、中心に向かって先端を揃えて並んでいます。
この先端を「腎乳頭(じんにゅうとう)」といい、ここから尿がしたたり落ちます。
落ちた尿は、小腎杯(しょうじんぱい)→ 大腎杯 → 腎盂(じんう)と、じょうごのようにだんだん太い受け皿に集まり、最後に尿管を通って膀胱へ送られます。
シャワーヘッドの穴が中心のカップに向かって並んでいる、とイメージして頂くと近いかと思います。

ろ過装置は、片方の腎臓に100万個ある
腎臓のろ過装置は、「ネフロン」と呼ばれます。
これが、片方の腎臓におよそ100万個。左右で200万個あります。
1個の大きさは肉眼では見えないほど小さいのですが、模型では拡大して再現されています。

写真のクリーム色の粒が「腎小体(じんしょうたい)」、そこから伸びる白い管が「尿細管(にょうさいかん)」です。
腎小体は、毛細血管が毛糸玉のように丸まったものが、袋に包まれた構造です。ここで血液から液体が漉し出されます。
写真をご覧頂くと、クリーム色の粒はすべて外側の皮質に並んでいることが分かります。
つまり、ろ過そのものは三角形の髄質ではなく、その外側の皮質で起きています。髄質は、漉し出された液体を運びながら濃さを調整し、中心へ集めていく場所です。
漉し出された液体は、腎小体から出る尿細管を通っていきます。
この管は、皮質から髄質へ深く下り、また皮質へ折り返してきます。写真で白い管がヘアピンのように曲がって見える部分で、「ヘンレ係蹄(けいてい)」と呼ばれます。
腎錐体に縞模様が見えるのは、この管と、それに沿って走る細い血管が、どれも中心の腎乳頭へ向かって同じ向きに揃っているためです。
1日150リットル漉して、1.5リットルだけ捨てる
腎臓が1日に漉し出す液体の量をご存じでしょうか。
およそ150リットルです(資料によっては180リットルとするものもあります)。
お風呂の浴槽が200リットルほどですから、その7割以上にあたります。
しかし、実際に尿として体の外に出るのは、1日1.5リットルほど。漉し出した量の、わずか1%です。
「では残りはどこへ消えるのか」と思われるかもしれませんが、捨てられているわけではありません。尿細管を通る間に、体へ戻されているのです。
水分だけでなく、糖・アミノ酸・ナトリウムなどの電解質といった、体に必要なものも一緒に回収されます。
もっとも、腎臓は血液の中身を丸ごと漉し出しているわけではありません。
赤血球のような血球や、大きなタンパク質は、腎小体でせき止められて血液の側に残ります。漉し出されるのは、水と、そこに溶けている小さな物質です。
さらに、漉されなかった老廃物のうちいくつかは、尿細管の壁から尿の側へあとから追加で捨てられます。
つまり尿は、「漉す」「必要なものを戻す」「足りない分を捨て足す」という3つの工程を経て、最後の形になっているわけですね。
腎臓には、心臓から出た血液の2割以上が流れ込む
下の写真で、断面の中心あたりに、赤と青の太い血管が出入りしているのが見えるかと思います。
赤が腎動脈、青が腎静脈です。ただしこの赤と青は、動脈と静脈を見分けやすくするための模型の色分けであって、実物の血管がこの色をしているわけではありません。

なお、写真の中央にある黄色い房のような部分は副腎ではなく、腎洞内の脂肪です。中心の空洞の中で、血管や尿の通り道のすき間を埋めるクッションになっています。
握りこぶしより小さい臓器なのに、この血管はかなり太く作られています。
理由は、流れる血液の量です。心臓から送り出される血液のうち、およそ20〜25%が腎臓に流れ込んでいます。
心臓が1分間に送り出す血液は、およそ5リットル。そのうち左右あわせて1リットル前後が、この2つの臓器を通っている計算になります。
腎臓の重さは、左右合わせても体重のおよそ0.5%です。
その小さな臓器に血液の2割以上が集まるのは、腎臓の仕事が「血液をきれいにすること」そのものだからです。
1分間に1リットルということは、1日で約1,400リットル。全身の血液はおよそ5リットルですから、同じ血液がおよそ300回、腎臓を通り抜けている計算になります。
腎臓は、尿を作るだけの臓器ではない
腎臓の働きは、尿を作ることだけではありません。
血液をろ過する過程で、体のバランスを整える仕事も同時にこなしています。
- 水分と電解質のバランスを調節する 体の水分が多ければ尿を増やし、少なければ濃い尿にして水を残します。
- 血液の酸性・アルカリ性を調整する 余分な酸を尿へ捨てて、血液の性質を一定に保ちます。
- 血圧の調整に関わる 血圧が下がると、腎臓が「レニン」というホルモンを出し、血圧を上げる仕組みが働きます。
- 赤血球を作らせるホルモンを出す 酸素が足りない状態を感じ取ると、骨髄に赤血球を増やすよう促すホルモン(エリスロポエチン)を出します。
- ビタミンDを活性型に変える 骨を作るために必要な形へ、腎臓が最後の加工をします。
尿を作る臓器が、なぜ血圧や骨や血液と関係するのでしょうか。
これらはいずれも、腎臓の中にある専用の細胞が担っている、独立した仕事です。ろ過のついでに起きているわけではありません。
ただ、全身の血液が繰り返し通る場所であることが、酸素の不足や血圧の低下といった体の状態を感じ取るのに都合がよいのは確かです。
本物の腎臓の断面は、模型とどう違うか
ここまで模型の写真でご説明してきましたが、本物の腎臓の断面は、模型ほどはっきりとは色分けされていません。
生きた状態の腎臓は、全体が赤褐色です。切ると、外側の皮質はやや明るい赤褐色、内側の髄質は少し暗く、うっすらと縞が見える程度の差しかありません。
模型のように、皮質と髄質と腎柱が別々の色で塗り分けられているわけではないのです。
血管の赤と青も、先ほど触れたとおり模型の約束事です。実物では、動脈も静脈もどちらも赤黒く見えます。
腎小体にいたっては、実物では肉眼でまったく見えません。写真のクリーム色の粒は、模型が1つ1つを目に見える大きさまで拡大して置いてくれているものです。
「では模型は本物と違うのか」と思われるかもしれませんが、授業や院内でのご説明には、模型のほうが向いています。
本物の断面写真を見せても、色の差が小さいため「どこが皮質でどこが髄質か」が伝わりません。
模型は、実物では見分けられない境目を色で分け、見えないものを拡大して置いてあります。構造を理解して頂くという目的には、そのほうが早いのです。
模型を見せる順番
腎臓は、言葉だけで説明すると「ろ過している」で終わってしまいがちです。
断面の模型を使う場合は、外側から中心へ向かって順に指でなぞりながら見せて頂くと伝わりやすいかと思います。
- 外側の皮質から始める クリーム色の粒が腎小体で、ここでろ過が起きていることを見せます。
- 三角形の髄質へ下りる 白い管が皮質から髄質へ折り返す様子と、縞模様が中心に向かって揃っていることをなぞります。
- 先端から中心へ 腎乳頭から小腎杯・大腎杯・腎盂へと尿が集まり、尿管へ出ていく道すじを追います。
- 最後に数字を置く 1日150リットル漉して1.5リットルだけ捨てる、という比を最後に出します。
「150リットル漉して1.5リットル」の比は、聞かれた方がいちばん驚かれる部分です。
先に構造を見せてから数字を出すと、「あの小さな粒の集まりでそれをやっているのか」という実感につながります。
腎臓の模型をお使いのお客様からは、次のようなご意見を頂いています。
「学生実習で腎臓の構造を説明する際に、人体模型を活用しています。目で見てわかるので、評判が良いです。」(看護学校)
※本連載は、教材・展示のための解説です。症状や治療に関することは、必ず医療機関にご相談ください。
第8回 腎臓の断面はこうなっているで用いた人体模型は
- 腎臓断面図 3倍拡大モデル 腎臓と副腎の断面を3倍の大きさで再現したモデルです。皮質・髄質・腎柱の区別、腎錐体の並び、腎乳頭から小腎杯・大腎杯・腎盂へ至る尿の通り道、そして腎小体や尿細管まで、1枚で確認できます。本記事の写真はすべてこのモデルです。
- 腎臓・副腎 実物大模型 腎臓と、その上に乗る副腎を実物大で再現したモデルです。実際の大きさと位置関係を体感して頂けます。
- 腎臓拡大 デラックス模型 拡大率が大きく、離れた席からでも構造が見える上位モデルです。多人数へのご説明や講義の場面に向いています。
- 腎小体700倍拡大模型 ネフロンの入口である腎小体だけを700倍に拡大したモデルです。ろ過が起きる場所そのものを、さらに踏み込んでご説明される場合に適しています。
動画で見る 腎臓の構造
※本記事の写真は「腎臓断面図 3倍拡大モデル」ですが、以下の動画は当センターの別の腎臓関連模型のものです。構造のイメージとしてご覧ください。
※動画は46秒と2分47秒の2本です。再生の際は音が出ますのでご注意ください。
※「腎臓・副腎 実物大模型」の動画です。本記事の写真の3倍拡大モデルとは別の商品です。
※「腎臓拡大 デラックス模型」の動画です。これも別の商品です。
構造をご自身の目で確かめたい方、患者さんやご家族・学生さんへのご説明にお使いになりたい方は、こちらから模型をご覧いただけます。
この連載の他の記事もどうぞ
連載「人体模型で見る、人間の体の不思議」
- 第1回 心臓の仕組み ── 1日10万回、休まず動き続ける臓器
- 第2回 肺で呼吸をするとは、どういうことか ── 肺は自分では膨らめない
- 第3回 脳の構造は、どうなっているのか? ── 1,400gの臓器の役割分担
- 第4回 「胃で吸収する」は嘘!胃の本当の役割とは? ── 栄養を吸収しているのは胃ではない
- 第5回 1500gの巨大臓器「肝臓」の役割 ── 沈黙の臓器と呼ばれる理由
- 第6回 鼻の断面図 鼻の中はどうなっている? ── 鼻腔・鼻甲介から副鼻腔まで
- 第7回 本物の心臓はどんな形? ── 形・大きさ・位置・色を実物大模型で
- 第8回 腎臓の断面はこうなっている (このページ) ── 3倍拡大模型で見る、尿ができるまで
- 第10回 人体模型の値段はなぜ違う? ── 同じ臓器で8倍ひらく理由と選び方


