第6話 ヴェサリウスと人体模型
アンドレアス・ヴェサリウスは(1514-1564)レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452年~1519年)と共にイタリアのルネサンス期を生きた人物です。
ヴェサリウスは、「ファブリカ(人体構造論)」を著し、西洋医学を変革した解剖学者として知られています。
当時の西洋医学はローマ時代からのガレノス医学が主流であり、確固不動の地位を築いていました。しかし、ガレノス自身、人体解剖を実際に行った経験はありませんでした。彼の多くの書物は動物解剖と動物実験をもとに書かれたものでした。そのため人体解剖について曖昧な記述や観念的な説明が多くありました。
ヴェサリウスはみずから多くの人体解剖を行いながら、緻密な解剖図を作成し、ガレノス医学の誤りを正し、近代解剖学の基礎を築きあげていったのです。
彼の大著である「ファブリカ(人体構造論)」は全7巻からなり、骨学、筋学、静脈・動脈、末梢神経、腹部内臓、胸部内臓、脳・感覚器という構成になっています。
ファブリカにおいて、骨格人や筋肉人が風景の中で自在なポーズをとる様子は圧巻であり、ヴェサリウスの芸術家としての側面を垣間見ることができます。
筋肉人の背景画は14枚がつながって1枚の絵となるしかけになっており、芸術的・美術的要素が多く含まれています。
特徴的なのは第1書の骨学と第2書の筋学で全体の半分以上を占めているということです。ヴェサリウスによると、これは骨学と筋学が人体の支柱をなすためとの説明でした。
この解剖図譜は視覚芸術への貢献度が非常に大きく、ヴェサリウス自身もそれを多分に意識していたはずです。
ファブリカのような精巧なイラスト図を用いて人体模型を製作することも可能であったかと思いますが、当時は、人体模型を製作するその材料や技術が追いついていなかったのかもしれません。
いずれにせよ、人体模型の存在はなくても数多くの人体解剖を経験してきたヴェサリウスによって解剖学と外科学の新しい時代の扉が開かれたのでした。
・・・第7話 「人体標本が展示される時代に」に続く

